第ニ話 百合

2.百合の園


青年は『百合』の後を付いて行った。 どこまでも…

気がついたとき、彼は『百合』とともに古びた屋敷の前に立っていた。

彼は『百合』の後について屋敷の中に入った。


「…」彼はその光景に驚いた。 

屋敷の庭は、百合の花で埋め尽くされていたのだ。 甘い香りが二人を包む。

(これは…あの煙草…)彼は彼女に尋ねようと口を開きかけて、思いとどまった。 『百合』の背中が質問を拒絶してい

るような…口を開けばそこで全てが終わるような気がしたのだ。

彼女は百合の間を縫って進み、屋敷の中に彼を招く…


程なくして、二人は重厚な作りのドアの前にいた。 

(ここは…)彼はそこから先は考えないようにした。 なんとなく『百合』に判ってしまうような気がしたのだ。

彼女がドアを開く。 

光があふれた。 予想外の光の洪水が彼の目をくらませる。 思わず手を上げて目を覆う彼にかまわず、『百合』が光

の中に消える。 一瞬の躊躇の後に、彼も『百合』の後を追って光あふれる部屋に入った。

白く塗りつぶされた視界で、次第に何かが形を作る。 それは大きなベッド…しかし、かれの想像が当たったのはここ

までだった。


(これは…何だろう…)彼の疑問は当然だろう。 一面の百合の花畑にぽつんと置かれたダブルベッド…最初はそう

見えた。 

辺りを見回して、ようやくこの部屋の作りが判ってはきた。 サンルームというのだろうか、部屋の半分が屋敷からせ

り出して全てガラス張りになっている。 それはいい…いいのだが…

(ここ…どこなんだ…)ガラスの向こうには百合の花畑が…はるか地平まで続いている。

困惑した彼は振り返り、さらに驚いた。 屋敷に面した側の壁は全て鏡張り…ドアの裏側まで…になっている。

それが百合畑の真ん中にベッドが置かれていると錯覚した原因だったが…


フワリ…彼の横を薄い煙がたなびいた。 振り返ると『百合』がベッドに腰掛てこちらを見ている…またあの煙草を咥

えて。

なんとなく赤面し、彼はベッドに歩み寄り百合の横に並んで腰掛ける。

…そのまま沈黙する二人。 (…どうしよう…)彼女にかける言葉を捜すが、うまい言葉が見つからない。

ちらりと彼女を見た。 すっ…と煙草が短くなる。 そしてこちらを見て妖しく微笑む。

フゥゥゥ… ふざけるように白い煙を彼に吐きかけた…

(…)甘い香りに包まれる、一瞬息を止める。 そして彼女の意を汲むように、ゆっくりと息を吸い込む。

(あ…)甘い煙が肺を満たした…トクトクトク…女の匂いの混じるそれが、心臓の鼓動にのって彼の体に染み込んでい

く…

木の葉が水面から沈むように、彼の意識が暗いところに沈んでいく…


不思議な感覚だった。

意識はあるのに頭が…そう理性が働かない…それでいて感覚は鋭くなっているようだ…血が血管を擦っているのが

判るような気さえする。

視界に鏡張りの天井が入った、部屋がひっくり返ったのだろうか。 違う、体の力が抜けてベッドら倒れこんだのだ。

(…)鏡に映った自分に『百合』が覆いかぶさってきた、ほっそりした指がシャツをはだけていく。

胸を『百合』が爪弾いた。 甘美な刺激に彼はピクリと震えた。 

青年の胸に『百合』が舌を這わす。 ぬれた暖かな肉が胸を這いずり、唾液の跡を残しつつ左の乳首にゆっくり近づい

ていく。

肋骨で舌が軽く弾み、乳輪に到達した。

あふぅ… 軽く吐息を漏らす。

はぅ… 『百合』の舌が尖り、乳首に食い込む。 敏感になった肌には、それがたまらなく心地よい。 

心臓にはかって心が宿るとされた。 いま、百合の舌は彼の心を舐め取ろうとしているかの様に、執拗に乳首に食い

込み。 不思議な愉悦で彼を揺すぶる。


気がつけば、二人とも服を着ていない。 

『百合』の手がの胸から腹をゆったりと撫でる。 滑る女の肌が彼の肌を耕し深い喜びの種をまく。 後を引く不思議な

快感が芽吹き、次第に彼を包み込んでいく。

『百合』は彼の臍にを執拗に舐めている。 彼女の乳首が彼のわき腹を擽る…その皺の一つ一つまでが判り、それが

新たな喜びを呼び起こす。

ズルリと『百合』が動き、白い女体の重みが彼に圧し掛かった。

(ああ…)彼の目の前に、芳しい『女の花』が開いている。 不思議な事に、あの煙草の香りと同じだ。

彼は薄いピンクのそれをそっと舐める…トロリ…きらめく清水の様な女の蜜がが流れ出す。

かれはそれを舌ですくい取る。

(甘い?…)花の蜜のように甘い…ネットリとした液体…疑問がふくらみかけたが…

(…)…理性が蜜に絡め取られていくのか、頭がさらに回らなくなっていく…舌が勝手に動きさらに蜜を求めて動く…

クチュ…クチュ…彼は『百合』の花に顔を埋め、淫らな蜜を求めて舌を動かし続けた。


チュルリ…

あぅ… 彼のおしべを『百合』が咥える感触。 あの淫らな舌がそろそろとカリから茎を這いずっている。

うっく… 甘い感覚が股間を一気に固くする。 しかし、これまで味わったことのない深い快感がかれに絶頂を許さな

い。 

彼の体は、より深い快楽が待っていることを確信しているのか、硬直し『百合』の舌の感触を貪り…そして、舌に貪ら

れながら耐えている。

二人の舌は互いの性器をゆっくり、深く、愛し続ける。 青年は、自分が次第に百合と一つになっていくかのような錯

覚に囚われる。

だが、男の体は無限に耐えることは出来ない。 青年の男根が小刻みで不規則に震えだした。

青年は次第に高まっていく迸りへの欲求に必死で耐えた。 しかし、互いの愛撫が深くなっていくにつれ耐え切れなく

なっていく。

(せめて…一緒に…)そう思ったが、『百合』の花は彼の愛撫に震えながらも、その快感を果てしなく呑み込み続けて

いるのかのようだ。

彼は絶頂を口に仕掛け、思いとどまる。 そして…


ドクッ… 最初の迸りを口に受けた『百合』の白い尻が大きく震えた。 もう止まらない。

ドクリ、ドクリ、ドクリ…男の欲望の源は、『百合』の口をを汚していく。

ドッ…ク…一際長い蠕動を示した後、力強かった男の象徴は、醜い皺だらけの男の欲の形に戻った…かれはそう感

じた。

快楽の熱が冷めていくのを感じながら、彼は『百合』に申し訳ない気持ちになった。


と、彼の視界の半ばを占めていたピンクい花が消え、上気した『百合』の顔がそれに変わる。

彼の欲望のエキスを呑み込んだはずの口からは、不思議な事にあの甘い香りだけが漂っている。

『百合』が顔を近づけて来る。 彼は躊躇わずに彼女と口付けを交わす。 彼女の唾液もまた蜜のように甘い。 そし

てねっとりと舌に纏わりつく。

はぁ…長いキスを交わした後、彼はため息をついた。 


『百合』は微笑むと、そのまま腰を動かし始めた。

彼が愛した『百合』の花が、彼の腹から腰の辺りを嘗め回し、あの蜜を塗りつけている。 かれの体に再びあの深い喜

びが満ち、股間のものが力を取り戻し始めた。

(…)彼は目を閉じて、『百合』の花を思い描く。 蜜を湛えた花、鈍く光る花びら…それが彼の腰を愛している…

フワリ…触れるか触れないか軽い愛撫…今度はわき腹を『百合』の指が触っている…

チュ…あふぅ…また乳首…軽く咥える唇…

ペロリ…耳が舐められる…?

チュ…指先に感じる花の感触…ごく軽く…??

彼の頭の中に疑問がわく…それが蜜のように甘い快感に絡め取られ…更なる疑問…


理性が…沈んでいたものが浮かび上がってくる…

彼は、くわっと目を開いた。

鏡に映る青年…彼の上に一人の女…『百合』が跨っている。 そして二人を取り巻く薄い霞のような煙草の煙…

(?…)

彼は煙の形に違和感を覚えた。 ともすれば悦楽に沈んでしまいそうな意識を引き戻し、必死で目を凝らす。

透き通り、重なり合って渦を巻く煙、その中に時折見える形は…幾人もの女…

(…幽霊?…)

彼は、力が抜けてしまった体を精一杯動かして、上半身を起こした。

【<<】【>>】


【第二話 百合:目次】

【小説の部屋:トップ】